お断り: 私は元医療系SE(富士通でレセコン・医事システムを担当)です。現役じゃありません。制度は日々変わるので最新情報は各所管官庁の公表資料を。あくまで「現場を知る一人の人間の視点」として読んでください。
私はカメラマンだ。でもその昔は、医療ITの現場でレセプトコンピュータと格闘していた。いわゆる医療系SEってやつだ。
そんな私が「消費税のシステム改修に1年かかる」——このフレーズを初めて聞いた時の率直な感想を言わせてもらうと、笑った。
いや、マジで。「1年?」って。
医療ITの現場に「1年」はない
診療報酬改定を知っている人ならわかる。あれは2年に1度、春にドカンと来る。しかも薬価改定は毎年ある。つまり毎年春と秋に「改定対応の山」 が回ってくる。
「告示から施行まで数ヶ月あるから大丈夫」——そう思う?
現場は違う。
告示(3月5日)が出ても、終わりじゃない。その後、疑義解釈が次々と発出される。
3月23日、4月1日、4月20日、5月8日、5月22日、5月29日……
本番3日前に「その7」が出る。 施行後の6月26日に「その9」が出る。
そのたびにシステム改修が追加発生する。スパゲティコードを解読し、単体テストを深夜に回し、翌朝にはリリース。終電を逃してタクシー帰り。「間に合わない」という選択肢は存在しない。 なぜならレセプトが通らなければ病院の収入がゼロになるからだ。
医療ITの現場には、「政治対立による猶予」なんてものは一秒たりともない。
「1年」という数字の奇妙な遍歴
ところが消費税の世界は違った。
| 時期 |
誰が |
何と言った |
| 2025年6月 |
石破首相(当時) |
「レジのシステム改修に約1年」 |
| 2026年4月 |
高市首相 |
「必ずしも1年でない」 |
| 2026年6月 |
Airレジ |
「3カ月でできる」 |
| 2026年6月 |
スマレジ各社 |
「即日対応可能」 |
ね?壁は驚くほど低かった。
しかも経産省の公式調査(2026年6月3日)では、0%対応なら最大1年、でも1%なら5〜6カ月と明記している。
一次資料がここにある:経済産業省 調査結果PDF
じゃあなぜ決まらないのか。
本当の壁はシステムじゃなかった
ここが核心だ。
当初は「システムの壁」と言われた。しかしAirレジもスマレジも「できます」と言っている。経産省の公式調査でも、やる気さえあれば0%でも1年、1%なら半年でいけると示されている。
壁は技術的には低かった。
ではなぜ決まらないのか。
週刊ポスト(2026年3月29日)は、財務省主税局が自民党税調小委員会に提出した内部資料を入手したと報じている。内容は消費税増税の効用ばかりを列挙したもので、「税率ゼロ」の文字は一切なかったという。
また同誌の別報道(6月16日)は、実務者会議に提出された「1%なら5〜6カ月」という資料が、「首相にゼロを諦めさせて1%に誘導する」ために財務省が用意したものだと指摘している。
これらは週刊ポストのスクープであり、直接の裏付けがあるわけではない。しかし、これらの報道を匂わせる事実は、複数の独立したソースから確認できる。
一つ。経産省の公式資料そのものが、0%より1%の方が遥かに現実的な選択肢であることを示している——「0%は最大1年、1%は5〜6カ月」。この差は技術的な限界ではない。政治が「1%でいい」と決めればそれで済む話だ。
二つ。時事通信(6月18日)は、高市首相と霞が関の官僚の間でこんなやりとりがあったと報じている。 首相が「やったらできるんやないの」と言えば、官僚は「無理です」と答える。システムの壁を盾に、官僚側が0%に抵抗していた生々しい証拠だ。
三つ。小渕優子元経産相が税調幹部を辞任した(産経・日経・日テレが確認)。 財政規律派の象格が、消費税減税への不満を理由に「インナー」を去った。党内の抵抗が本物だったことを示している。
これらを積み重ねると、一つの解釈が浮かび上がる。
システム改修の壁は、技術的には大した話ではなかった。だが、その壁を大きく見せることに財務省にとって都合があった。壁を盾に0%を阻止し、1%に誘導すれば、税率を残せる。将来の増税の余地を残せるからだ。
つまり、消費税減税が進まない本当の理由は——
システムベンダーの悲鳴でも、技術的に不可能だからでもない。
税収を減らしたくない財務省を中心とする政治的抵抗。 これが本質だ。システムの壁は、その抵抗を隠すための表向きの理由だった——そう考えるのが自然だろう。
システムの壁は方便だった
システム改修の期間は、技術的な限界ではなく、利害調整と政治判断で決まる。
医療ITの現場は、それを「技術の限界」と呼ばせてもらえなかった。間に合わせるのが当たり前だった。
消費税の現場は、「システムの壁」と叫べば政治が動いた。
——ただしそれは財務省が減税を先延ばしにするための方便だったに過ぎない。
今回の一連の経緯は、「システム」という言葉がいかに都合の良い隠れ蓑として使われるかを如実に示している。
私が言いたいのはただ一つ。
「システムの壁」を理由にするなら、医療ITの現場にも同じ基準を適用しろ。
さもなければ、それはただの言い訳の二重基準だ。
参考リンク