CP+2026。富士フイルムのブースに集まる人たちの層が、ここ数年と違った。
先日、富士フイルムの「X half」に触れた。
店頭の試用機を手に取り、縦に構えて、数枚切った。
「……あ、これは買っちゃう人の気持ちが、わかった。」
フレームは3:4。フィルムのフリをしたデジタルのレバーが、指に返ってくる。不便さを、わざわざ選んでいる。その意志が、ボディ全体から漂っていた。
帰り道にE-M10(初代)を取り出した。いつもの重さ。いつもの4:3。
このカメラには、ハーフを名乗る資格がない。でも今日も私は、これを縦に持って街を歩いている。
今回の調律ポイント
ハーフが、久しぶりに「ジャンル」になった
2026年のカメラ市場に、ちょっとした熱がある。
アナログ側ではPENTAX 17。36枚撮りのフィルムが72枚になる経済性は、フィルム代が笑えない水準になった今、洗練された強さを持つ。ゾーンフォーカスを合わせ、レバーを巻く。その手順ひとつひとつが「儀式」として機能している。
デジタル側では富士フイルム X-HF1(X half)。1型センサーを積みながら、あえて縦長3:4フォーマットで撮らせる。フレーム切り替えに物理レバーを使い、撮り切るまで結果が見えない設定まで用意されている。「不便を楽しむ」という狂気が、ハードウェアとして整形されている。
ジャンルとして、ハーフが戻ってきた。それも二正面から、同時に。
「X half」が手渡したもの
手に取った瞬間にわかった。縦以外を難しくしてある、と。
実機を触るまで、私の中に「富士のユーザーはちょっと頭おかしいのが多い」という偏見があった。褒め言葉として言っている。
X halfに触れて、その確信の根拠が見えた。
富士は「縦で撮る不自由さ」をハードウェアとして固定した。縦にしやすい、縦が撮りやすい、そういう便宜の話ではない。縦以外の選択を、構造的に難しくしたのだ。
スマートフォンで縦動画に慣れた身体が、違和感なくそのフォーマットを受け入れる。フィルムシミュレーションが乗り、ファインダーを覗いた瞬間から「作品を作っている感覚」が始まる。
デジタルの利便性を、情緒で上書きした。それだけのことを、ここまで徹底してやった。
PENTAX 17が踏み込んだ場所
一方でPENTAX 17は、デジタルのX halfが踏み込まなかった領域に立っている。
「本物のフィルムを使う」という一点だ。
デジタルがいくら情緒を模倣しても、フィルムの粒子・現像の待ち時間・撮り直しのきかない緊張感は再現できない。PENTAX 17はそこに戦場を設定した。誰もそこに新製品を出してこなかった空白に、まっすぐ踏み込んだ。
フィルムが高い。36枚が72枚になる経済性は、その文脈で初めて輝く。コンパクトで軽い。装備の重さが積み重なる一日の撮影で、この差は体感として出る。
不便さを楽しむフィルムの文化と、現実的な経済性を、同一線上に置いた判断だった。
OMはどこにいるのか
事実を確認したい。
OM SYSTEMの最新機「OM-3」は高い完成度を持つ。防塵防滴・高速AFを極めた「山カメラ」として、アウトドア・野鳥・ネイチャーのジャンルで評価を受けている。OMはブランドの軸を決めた。「人生にもっと冒険を」。
その判断自体を批判する気はない。
ただ、一点だけ引っかかっている。
オリンパス(その系譜を引くOM SYSTEM)は、ハーフカメラの元祖だ。
1959年、オリンパスPENが発売された。フィルムを節約し、小型化を実現したハーフカメラの先駆けがここにある。デジタルPENで「おしゃれなミラーレス」の文脈を作ったのもオリンパスだった。
そのブランドが、2026年のハーフブームに何も出してこなかった。
本家が、本家の戦場にいない。
マイクロフォーサーズという「持ち腐れ」
私がE-M10初代を使う理由のひとつに、マイクロフォーサーズのセンサーサイズがある。
4:3のアスペクト比は、フィルムのハーフサイズに近い縦横比を持っている。このまま縦位置で切り取れば、ほぼハーフの画角になる。
OMはその資産をすでに持っている。ハーフに最も近いデジタルフォーマットを、すでに持っている。
それを「ハーフの精神」へ昇華させた製品を出してこなかった。
私がE-M10で縦の4:3設定を使い、街を切り取るのは、メーカーが提供しなかった「PENの魂」を、設定と身体性で延命させているだけだ。
AL:「選ばない」という選択の精度を上げていく
X halfに触れた手で、E-M10を持った。
これは惰性ではない。
X halfが「正解」のひとつであることは、実機を触って確信した。富士が作った不自由は本物だ。買う人の気持ちがわかった。それでも私は、E-M10初代の縦運用を続ける。
機材が「ハーフ」を名乗るのではなく、撮り手が「ハーフとして振る舞う」こと。
私はその精度を、まだ上げられると思っている。設定を固定するだけでなく、縦で切り取る視点そのものを鍛えていく。X halfの存在は、その精度を上げるための刺激になる。
これが今の選択だ。
▍本日の調律セット
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不自由を買う、という選択。その価値を手で確かめた。
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PENの名前を継いだ現行機。初代E-M10の精神を、今買えるかたちで。
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