箱根あじさい電車のヘッドマークを付けた赤い登山電車が、緑豊かな木々の中で輝く写真
この記事のサマリー
👋 はじめに:最高の案内人と巡る、箱根あじさい撮影の旅
しとしとと雨が降る梅雨の季節。ともすれば憂鬱になりがちなこの時期も、カメラを片手に外へ出れば、一年で最も美しい景色に出会える特別な季節に変わります。
その主役が、雨粒に濡れてしっとりと輝く「あじさい」です。
この記事は、単なる撮影スポットガイドではありません。
先日、写真仲間であり、このエリアを熟知した最高の案内人・土屋さんと共に巡った、「ある一日の、リアルな撮影旅行の記録」です。
成功も、失敗も。発見も、後悔も。そして、仲間と交わした何気ない会話も。
そのすべてをひっくるめた私たちの旅の物語が、あなたの次の撮影旅行の、何か小さなヒントになれば幸いです。
夜の箱根登山鉄道と紫陽花
1. 旅の準備と、機材選定の哲学
旅の成功は、前日の夜から始まっています。バッテリーを満充電にし、カメラにグリップとアルカスイスプレートを装着する。この地味な作業こそが、翌日のスムーズな撮影を約束してくれます。
そして、最も重要なのが機材選定。今回の旅で、私はあえて重い三脚と大口径の望遠レンズ(M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO / 35mm判換算で80-300mm相当)を家に置いていく決断をしました。身軽さを重視し、選んだのは以下の5本のレンズで構成される、多彩な表現が可能なシステムです。
- 標準ズーム(メインレンズ):M.ZUIKO DIGITAL ED 12-45mm F4.0 PRO / 24-90mm相当(35mm判換算)
- 望遠ズーム:OLYMPUS M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F4.0-5.6 R / 80-300mm相当(35mm判換算)
- 広角ズーム:OMDS/オリンパス M.ZUIKO DIGITAL ED 9-18mm F4.0-5.6 / 18-36mm相当(35mm判換算)
- 魚眼レンズ(超広角):SAMYANG 7.5mm F3.5 UMC Fish-eye (※35mm判換算の焦点距離は、魚眼レンズのため焦点距離の記述は省略)
- 明るい標準単焦点:パナソニック LUMIX G 25mm / F1.7 ASPH. / 50mm相当(35mm判換算)
この「持っていかない」という選択と、信頼できるPROレンズを主軸にした身軽な構成が、フットワークの軽さを生み、結果として多くのシャッターチャンスに繋がりました。
(ちなみに、私の所有機材は写真投稿サイトGANREFでも公開していますので、ご興味のある方はご覧ください)
2. 【旅の鉄則】スタートダッシュを逃さないために
ここで、私がいつも後悔し、そして自分に言い聞かせている、旅の鉄則を一つだけ共有させてください。
薄紫の紫陽花のつぼみと、駅のホームの風景
それは、
ということです。
素晴らしい旅の予感に胸を躍らせながらも、駅に着き、電車に乗り込むまでの「移動中」の写真が、私の記録にはいつも驚くほど少ない。なぜか?理由は単純で、「大きなカメラバッグからメイン機材を出すのが億劫」だからです。
「まあ、最初はスマホでいいか…」
その安易な妥協が、後でいつも自分を悲しくさせます。高級なスマートフォンならまだしも、そうでない場合、いざという時にピントを外したり、後で拡大してみるとノイズで絵が荒れていたり…。旅の始まりの高揚感を記録するには、あまりにも心許ないのです。
だから、私は決めました。
たとえそれがコンパクトデジタルカメラでも、小さな単焦点レンズをつけたミラーレスでもいい。何か一つ、「すぐに撮れるカメラ」を首からぶら下げて旅を始める。
この小さな準備が、旅のスタートダッシュを逃さず、後悔のない一日を創り出すための、何よりも大切な「儀式」なのです。
……と、偉そうに書いてみましたが、今回の旅でもスタート時の写真が少ないのは事実。次からこそ、必ずそうします……!💦
3. 旅の始まりと、乗り換えの罠
旅の始まりは、いつも少しだけ波乱含みです。当日の朝、天気やルートを最終確認していると、スマートフォンの乗り換えアプリに「遅延」の文字が。乗る予定だった小田急線に、何やらトラブルが発生している様子。
ただでさえ、湯本での登山鉄道との乗り換えはシビア。この遅延がどう響くか…。結局、乗り換えで20分ほど待つことになり、旅の計画はいきなり試されることになりました。これは痛いタイムロスです。
そんな不安な気持ちを抱えながら、駅へと向かいます。それでも、この日の私には心強い味方がいました。
今回の旅の成功の立役者、土屋さんです。
撮影において、技術や機材はもちろん大切ですが、その土地を知り尽くした案内人の存在は、何物にも代えがたい宝物。彼の的確なナビゲートがあるからこそ、私は安心して撮影に集中できるのです。
そんな最高のパートナーと共に、少しの不安と大きな期待を胸に、私たちの箱根あじさい撮影の旅は始まりました。
4. 撮影本番:「あじさい電車」の洗礼と、構図への集中
土屋さんの案内に導かれ、私たちは箱根登山鉄道沿線の撮影ポイントを巡ります。
大平台駅と、癒やしの「スイッチバックカフェ」
まず向かったのは、スイッチバックで知られる大平台駅。ここは停車中の電車とあじさいをじっくりと狙える、まさに定番スポットです。
スイッチバックカフェの窓際で、アイスコーヒーとソフトクリームが置かれたテーブル
夢中でシャッターを切っていると、じりじりと照りつける日差しと湿気で、あっという間に体力が奪われていきます。そんな時のオアシスが、駅近くにある「スイッチバックカフェ」。
冷たいコーヒーで喉を潤しながら、窓の外で繰り広げられるスイッチバックを眺める。次の電車を待つ時間さえも、贅沢な撮影旅行の一部に変わる、最高の休憩場所です。
「あじさい電車」の、忘れられない洗礼
この旅で最も象徴的だった光景に出会ったのは、旧型車両に乗車した時のこと。
車窓ぎりぎりまで迫るあじさいの枝が、ふいに車内へと飛び込んできて、前の席に座っていたカップルの顔を、優しく、しかし確実に「バサッ!」とはたいたのです。
驚く二人と、車内に広がる小さな笑い。
これこそが「あじさい電車」の醍醐味。この臨場感とハプニングこそ、私たちが撮りたかった風景そのものでした。
赤い箱根登山電車と、鮮やかな青い紫陽花
塔ノ沢駅と、隠れた名スポット「銭洗弁財天」
賑やかな観光地から少し足を伸ばし、塔ノ沢駅へ。ここで土屋さんが案内してくれたのが、ホームからすぐの場所にある「銭洗弁財天」です。
赤い鳥居とあじさいの色の対比が美しく、静かな雰囲気の中でじっくりと撮影できる、まさに「知る人ぞ知る」穴場スポットでした。
苔むした鳥居の奥を走る赤い箱根登山電車と、緑豊かな風景
5. この旅で得た、3つの教訓
素晴らしいスポットを次々と巡る中で、私はいつしか焦りを感じていました。
「あっちも撮りたい、こっちも撮りたい。時間が足りない…!」
太陽の光を浴びて輝く、鮮やかな黄緑色の西洋紫陽花
そんな私に、この旅は三つの大切な教訓を与えてくれました。
一つ目は、
「撮影ポイントを欲張ると、結局どれも中途半端になる。一枚一枚、縦で撮るか、横で撮るか。構図に集中することこそが重要だ」
ということです。
主役は電車か、あじさいか。どこまで絞って、どこをぼかすのか。
目の前の絶景に惑わされず、自分が本当に撮りたいものは何かを問い、構図を決める。その潔さが、凡庸な記録を特別な一枚へと変えるのだと、改めて実感した瞬間でした。
二つ目は、
「時刻表を制する者は、撮影を制す」ということです。
撮りたい電車がいつ来るか、だけではありません。私たちが今乗っている電車、次に乗り換える電車、そして最終便の時間。特に、帰りの湯本発ロマンスカーは意外と早く終わってしまいます。私も今回は乗り遅れ、その後の乗り換えがスムーズか、ヒヤヒヤしながら帰路につきました。
時刻表を事前にしっかりと頭に入れておくこと。これが、余裕を持った撮影計画と、心穏やかな帰り道を保証してくれるのです。
三つ目は、
「最適な機材選定が、旅のフットワークを左右する」ということです。
今回の旅で、私はあえて重い三脚や大口径レンズを置いていく決断をしました。そのおかげで、機動力は格段に上がり、多くのシャッターチャンスに恵まれました。旅のスタイルに合わせて、何を持っていくか、何を持っていかないか。この見極めが、撮影の自由度と成果に直結します。
6. 【コラム】ロマンスカーでの反省会と、写真好きの機材談義
撮影を終えた私と土屋さんの夜は、帰りのロマンスカーでの「反省会」で更けていきます。缶チューハイと枝豆を片手に交わされるのは、もちろん写真の話ばかり。
「OM-1のゴースト、やっぱり癖があるよね」
「オールドレンズのノクトン、周辺減光がエモいんだけど、被写体を選ぶんだよなあ」
「広角レンズにAFって、本当に必要かな?」
こんな、ちょっとマニアックで、でも最高に楽しい会話が繰り広げられる時間。これもまた、写真仲間との旅の醍醐味です。
旅の終わりには、列車の遅延というハプニングもありましたが、そんな中で土屋さんから教えてもらった乗り換えアプリ「駅.Locky」(エキロッキー)は、この日の大きな収穫の一つとなりました。
7. 最後に:最高の旅は、人との出会いから生まれる
この記事で、私と土屋さんが共に歩んだ、箱根あじさい撮影のリアルな一日をお届けしました。
旅を終え、この記録を振り返るたびに、改めて胸に深く刻まれることがあります。
それは、私たちが本当に追い求めていたものが、「完璧な一枚」という結果だけではなかった、ということです。
最新の機材でも、磨き上げられたテクニックでもなく。
その土地の魅力を教えてくれる案内人、心から笑い合える仲間との「出会い」こそが、旅を何倍にも深く、何倍にも美しく彩り、そして私たちの心を震わせる「忘れられない一枚」を生み出す、真の原動力になるのだと、私は確信しています。
土屋さん、最高の旅を本当にありがとうございました。
さあ、次はあなたの番です。
この小さな物語が、あなたの日常に、そしてあなたのカメラに、新たな「旅」の息吹を吹き込むことを願って。
あなたは、次の一歩を、誰と、どこへ踏み出しますか?