「待ちわびた、土の香り」を封じ込める、最後の格闘。皮が焦げる匂いとともに、春の鮮度が指先に伝わる。
三度目の正直で、やっと会えた
今シーズン、馴染みの竹林へ足を運ぶのはこれで三回目になる。
ここは親族が守り続けてきた山だ。かつて危険な草木が伸びる山道を整備し、バッテリー式の草刈り機を振り回して土地と格闘した夏を思い出す。私にとってここは、単なる採取場ではなく、手入れを続けるべき『現場』でもある。
過去二回は、地面をいくら凝視しても、土が持ち上がった気配すら見つけられずに手ぶらで帰宅していた。正直、今日いなければもうしばらくは諦めよう、なんて弱気なことも考えていた。
だからこそ、枯れ葉の隙間からわずかに顔を出した、泥だらけの先端を見つけた時は、思わず声が出そうになった。
「……やっと会えた」
三度目にしてようやく果たした顔合わせ。その瞬間、これまでの空振りに費やした時間は、この一瞬の喜びを膨らませるための前振りに変わった。
スコップと泥、見えない壁との格闘
手に取ったのは、使い慣れたスコップだ。
傷つけないように慎重に、かつ力強く刃を突き立てる。だが、土の中に潜んでいた何かが、その進入を拒んだ。
「ガツン」
乾いた衝撃が手首に響く。石か、それとも古い竹の根だろうか。
無理に押し込めば、たけのこ(筍)を傷つけてしまうし、自分の体力も持たない。私は正面から突破するのをやめて、少しずつ位置をずらしながら、スコップが入る「隙間」を探ることにした。
回り込んで、急所を捉える
そこからは、泥との地味な対話だ。
右がダメなら左から、次は斜め後ろから。たけのこの周囲をぐるりと回り込み、土の抵抗がふっと軽くなるポイントを執拗に探り当てる。
今日の斜面は水分を含んでいて、一掻きごとに土がずっしりと重い。泥だらけの長靴で踏ん張り、息を切らしながらも、意識はスコップの先が捉える「手応え」の変化だけに集中していた。
そして、ついにその時が来た。
スコップの先端が、根元にガツンと深く食い込んだ。
「……しめた」
この感触さえ掴めば、勝負は決まったようなものだ。
通年の今頃は、すでに山で取れたたけのこの保存方法を案ずるほどだった。数年にわたりこの斜面を観測し続けているからこそ、今年の『三度目』という遅さが、季節のズレとしてクッキリと現像される。
収穫の重みと、その先の愉しみ
テコの原理で土を跳ね上げると、粘りつくような泥を振り払って、たけのこがその全貌を現した。
掘り起こした瞬間の重みは、三回分の期待を裏切らない、ずっしりとした手応え。泥を払いながら、私の頭の中にはすでに、これをどうやって食べようかという、一番の愉しみが立ち上がっていた。
今年初めての味覚だ。
皮付きのままじっくり焼くのもいいし、薄切りにして七輪で炙り、醤油をひと垂らしするのもたまらない。
「……今夜は、最高のご馳走になるな」
泥にまみれた肉体の疲労が、その想像だけで少しずつ霧散していくのがわかった。
完結:食卓という名のゴール
今回もまた、あの日の山道整備と同じように、一人の生活者としての格闘の記録が私の中に積み重なった。
リュックに収まったたけのこを背負い、家路につく。
まずはアク抜きを済ませ、そこから夕食の準備が始まる。
掘りたての、待ちわびた、土の香りを逃さず、今この瞬間の鮮度をそのまま胃袋に収めること。
その味を噛み締めた時、私の今日一日の長い格闘は、ようやく報われて完結する。
本当に行ってよかった。今夜の食卓が、今から待ち遠しくて仕方ない。
試行転化:鮮度という名の時間戦
家路についてからの私は、カメラを置くよりも先に大きな鍋に火をかけた。
掘りたての「たけのこ」の香りは、土から離れた瞬間から刻一刻と失われていく。この待ちわびた、土の香りを封じ込めるには、疲労に負けて翌日に回すという選択肢は存在しない。
私は、泥を落としたそばから次々と鍋に放り込み、最短距離で「今年初めての味覚」を固定することに決めた。
私は、どれほど疲れていても「収穫から1時間以内のアク抜き」を、この春の絶対的な運用ルールとすることに決めた。
私は、この粘土質の硬い斜面を攻略し、鮮度を逃さぬスピード収穫を支えてくれた、しなやかさと堅牢さを兼ね備えたこのショベルを、春の最優先装備として再定義した。
植木屋の時からの愛用品、剣スコ(略称、別名:ケンスコ、剣スコップ、ショベル丸形)だ。
道具の信頼性が、収穫の喜びと翌日の身体の軽さを左右すると実感している。もし竹林に挑むなら、確認してみてほしい。
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未解決:理想の焼き加減
本日の収穫は大満足だ。
だが、たけのこの個体差に合わせた「一番美味しい焼き加減」には、まだ確固たる答えがない。
強火で一気にいくか、じわじわ攻めるか。今夜の「今年初めての味覚」で、また新しい「正解」を探ってみようと思う。
未解決:七輪でのたけのこ焼きにおける、香りを最大化する火加減とタイミング。
私は今夜の献立を反芻しながら、心地よい疲れとともに斜面を下ることにした。