カメラと

カメラと日常の覚書

狙った角煮はどこへやら。秋葉原「三笠」で出会った、エッジの立ったアジたたき丼。

アジたたき丼のクローズアップ。刻みネギと生姜が乗った、エッジの立ったアジの身。
寄ってみて、確信した。この切り口、この輝き。鮮度の良さがファインダー越し(肉眼)でもクッキリと伝わってくる。

11時半。秋葉原のスタジオでの撮影を一度中断し、外に出た。
狙いはただ一つ、ずっと宿題にしていた「三笠」の豚の角煮定食だ。1,200円という予算を握りしめ、あのトロトロに煮込まれた肉塊にピントを合わせて暖簾をくぐった。

秋葉原の路地裏にある飲食店「三笠」の外観。年季の入った木の看板と、店先に並ぶ自転車。
宿題にしていた「三笠」。この佇まいが、期待値を静かに押し上げる。

「角煮」を逃した先にあった、鮮烈な一皿

「いらっしゃい!」

威勢のいい声とともに、カウンターの向こうで二人の職人が立ち働いている。
だが、品書きを二度見しても「角煮」の文字はない。店主に問うと、今日の日替わりは「アジのたたき丼」だという。

三笠の入り口に貼られたお品書き。とん汁、肉豆腐、さば塩焼などの定食メニューと、数量限定「アジたたき丼 1,200円」の貼り紙。
品書きを確認する。お目当ては不在だったが、代わりに「限定」の文字が目に飛び込んできた。

一瞬の落胆。しかし、隣のテーブルへ運ばれてきた丼の「顔」を見た瞬間、その迷いは蒸発した。

「これだ」

私は迷わずアジを注文し、出してもらったコップの水で喉をうるおす。

一緒にランチに出たスタッフの注文した定食もうまそうだ。全員、違うものを頼んだ。
カウンター越しに届く「肉豆腐」の甘い香りと、こんがりと焼かれた「さば塩焼き」の匂い。

三笠のテーブルに並ぶ、アジたたき丼、肉豆腐、さば塩焼きの3つの定食。
肉豆腐の甘い香りと、さばが焼ける匂い。これだけ魚を扱いながら、店内に生臭さが一切ないのが、この店の「格」を物語っている。

店舗情報:秋葉原「三笠」の作法

  • 店名: 三笠(みかさ)
  • 場所: 東京都千代田区神田和泉町1−2−21(JR・秋葉原駅、都営新宿線・岩本町駅すぐ)
  • 混雑時のルール: 相席は当たり前。ここではそれが当たり前の風景だ。
  • メニュー: 数量限定の日替わり。角煮が出るかアジが出るかは、その日の巡り合わせ。

澄んだ空気と、エッジの立ったアジ

以前訪れた別の店では、店内に魚の生臭さが充満していて閉口したことがあったが、ここにはそれがない。
魚をメインに扱いながら、店内の空気が清々しく保たれているというのは、それだけで職人の腕と管理の良さを信頼させる。

もちろん煙草もNGだ。

食事中に口の中に紛れ込んでくるあの不快な感覚がないのは、繊細な魚の味を楽しむ上で何よりの調味料になる。

味がいいだけに、「もう少し」が欲しくなる

アジたたき丼定食の全体像。味噌汁、小鉢、漬物が添えられた、バランスの良いランチ膳。
「もう少し欲しかった」とこぼしたが、盆の上には確かな満足が並んでいた。

運ばれてきた丼を見て、確信する。アジの身が立っている。
醤油を弾くほどの弾力だ。包丁の研ぎが良いのだろう、エッジの効いた切り口が美しい。

正直に言えば、アジの量は「もう少し欲しかった」。
味がいいだけに……

アジだけに。

そんな独白も、この新鮮な身を前にすれば、満足感と一緒に溶けて消えていく。角煮への未練は、一口ごとに鮮やかな驚きへと上書きされていった。

撮影現場のリズムに戻る

店内は秋葉原の昼時らしい、淀みのない回転で満たされている。
相席の向かいに座る見知らぬ誰かと、無言で「旨いな」と共有しているような、この街特有の心地よいリズム。

店を出る際、改めて「角煮」への思いを噛み締める。
日替わりゆえの不確実性。それは、いつ最高の結果が出るか分からない撮影現場の面白さにも似ている。

「次は、角煮にピントを合わせに来るか」
口の中に残るアジの甘みを確かめながら、私は午後の撮影が待つスタジオへと足取りを戻した。