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カメラと日常の覚書

【ホタル撮影記2025】なぜ彼らは光を照らすのか?ある夜の絶望と、僕がたどり着いた“一つの問い”

はじめに:これは、ある夜の、僕の思索の記録です

こんにちは。カメラマンのりょうです。

6月。僕は、一年で最も楽しみにしている撮影の一つ、ホタル撮影へと向かいました。 その夜、僕の数時間に及ぶ努力は、次々と現れる無自覚な光によって、無に帰しました。

しかし、安心してください。 これは、単なる失敗談や、誰かを責めるための記事ではありません。 このほろ苦い体験を通じて、僕が何を考え、そして、一つの「問い」にたどり着くまでの、思考のプロセスそのものを記録した、僕なりの問題提起です。



【期待】完璧な準備と、静寂の中で待つ時間

最高の写真を撮るためなら、努力は惜しまない。 それが、僕の信条です。

お昼過ぎから撮影地に入り、日が暮れるまで、ただひたすらに、その瞬間を待ちます。 この、静寂の中で機材と向き合い、自然の気配を感じながら待つ時間こそ、写真撮影の、何物にも代えがたい喜びの一つなのです。

まだ明るい時間帯に、三脚を立てて準備する

【絶望】次々と現れる「光の訪問者」たち

陽が落ち、あたりが完全な闇に包まれた頃。 ホタルが、まるで僕を励ますかのように、ふわり、ふわりと光の軌跡を描き始めました。 その、僕が何時間もかけて、たった一本の光跡を写し撮ろうとしていた、繊細な世界。

しかし、その世界は、いとも簡単に破壊されます。 最初に現れたのは、一台のGoProを構えた家族連れでした。 お子さんが振り回すライト、カメラの正面モニター、スマートウォッチの再生画面、そして足元を照らす、家電量販店で一番明るいような、高性能ライト…。

僕は、そっと撮影を中止しました。 しかし、悲劇は一度では終わりませんでした。 その家族が去った後も、まるで申し合わせたかのように、次から次へと、煌々とライトを照らした別のグループが現れるのです。

一度なら、我慢できたかもしれない。 しかし、この「悪意なき光の暴力」が、この夜、何度も、違う人々によって繰り返された時、僕の心は、ついに折れてしまいました。

【僕の葛藤】彼らは、本当に「悪者」なのだろうか?

暗闇の中、機材を片付けながら、僕の心の中では、二つの感情が渦巻いていました。 一つは、数時間の努力を無にされたことへの、どうしようもない「怒り」。

しかし、もう一つ。 「僕も、もし子供の時に、親にここに連れてこられていなかったら、同じことをしたかもしれない」という、不思議な「共感」の気持ちでした。

真っ暗な夜道は、確かに怖い。子供を、家族を守るために、ライトを照らす。それは、ある意味、当然の行動なのかもしれません。 彼らを、一方的に「悪者」として断罪することは、果たして正しいのだろうか。

しかし、その時、僕の頭に、一つの、そして最も大きな「疑問」が浮かび上がったのです。

「待てよ。でも、彼らは、ここに来たんだ」

こんな暗い時間に。駅からも遠い、この場所に。 わざわざやって来たということは、何かしら、ネットやSNSで、この場所の情報を調べてきたはずです。

その、彼らが見たであろう情報の中に、本当に「ホタル観賞の際は、ライトを消しましょう」という、たった一行の注意書きは、なかったのでしょうか?

もし、あったのに無視したのだとしたら、それはあまりに悲しい。 もし、そもそも、そんな情報がどこにも書かれていなかったのだとしたら…?

その時、僕は気づいたのです。 本当に問われるべきは、あの訪問者たちのマナー意識だけではないのかもしれない。 この美しい場所の魅力を発信する、私たち「情報発信者」自身が、「マナー」という最も大切な情報を、伝えきれていないこと。

それこそが、この悲劇が繰り返される、本当の原因なのではないだろうか、と。


▼【完全ガイド】ホタル撮影シリーズ 全5章

この記事は、僕の探求の「始まり」を記したものです。 具体的な撮影テクニックや、現像方法については、こちらの完全ガイドで、僕の持てる知識の全てを解説しています。

まず、全ての物語の始まりである「第1章」はこちら。 ryo-camera.com



まとめ:未来のために、私たちができる「3つの提案」

ホタル撮影における最大の敵は、暗さや、機材の性能ではありません。 それは、他の誰かへの、そして、そこに生きる小さな生命への「想像力の欠如」です。

この悲しいすれ違いをなくし、誰もが気持ちよく、この美しい光景を楽しめる未来のために。 「情報発信者」の一人として、僕から、3つの具体的な提案をさせてください。

提案1:ライトは「最弱」が「最強」

  • もし、どうしてもライトが必要なら。新宿の夜を照らせるような高性能ライトは、ホタルの前では最悪の選択です。光量を一番下まで絞れるものか、今にも消えそうな弱々しい光を放つ古い懐中電灯の方が、何百倍も優しい。ホタル観賞においては、「最弱の光こそが、最強の道具」です。もちろん、赤いセロハンを一枚巻くだけでも、世界は大きく変わります。

提案2:スマホやカメラの画面は「最低輝度」へ

  • 液晶画面の光は、暗闇では驚くほど強力です。画面の明るさを最低に設定するだけで、周囲への影響は劇的に減ります。撮影する時も、しない時も、これはすぐにできる、優しい配慮です。

提案3:情報発信者は「マナー」をセットで伝える責任を持つ

  • 僕自身への自戒も込めて。撮影地の情報を発信する際は、必ず「アクセス方法」や「美しさ」と同じ熱量で、「守るべきマナー」をセットで伝えることを、私たちの共通ルールにしませんか。それこそが、この美しい自然を守る、最も確実な方法です。

この小さな意識の積み重ねが、来年も、そして10年後も、私たちがこの美しい光のダンスに出会える、唯一の方法なのだと、僕は信じています。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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